「御名によって」か「御名の中に」か? ヨハネ17:12
ギリシャ語の前置詞についてです。
●ヨハネ17:12
ヨハネ17:12には、二種類の訳があります。
新共同訳
わたしは彼らと一緒にいる間、あなたが与えてくださった御名によって彼らを守りました。
新改訳
わたしは彼らといっしょにいたとき、あなたがわたしに下さっている御名の中に彼らを保ち、また守りました。
ご覧のとおり、「御名によって」という訳と「御名の中に」という訳があります。
これは、「エン」というギリシャ語の前置詞の訳し方の違いによります。
エンには「~によって」という意味と、「~の中に」という意味があるため、
訳され方が二分している状況です。
●聖句の意味の違い
知る人ぞ知る聖書学者D.A.カーソンは、次のように解説しています。
「御名によって」と訳した場合、弟子たちを守る手段が強調されることになり、イエスは、「あなたの御名によって彼らを守ってください」、あるいは新国際訳(NIV)のように「あなたの御名の力によって彼らを守ってください」と嘆願していることになる。(中略)
一方、「御名の中に」と訳した場合、弟子たちを守る位置が強調されることになり、イエスは「彼らをあなたに忠実な者として保ってください」とか「あなたの人格に固く従うように保ってください」と願っていることになる。
●文脈
言葉そのもの意味だけでは訳語の是非を決められない場合、前後の脈絡の意味にそぐう翻訳をすべき、というのが原則です。
そこでカーソンは、次のように解説しています。
文脈は、二番目の解釈に好意的である。「あなたがわたしに下さっている御名」という節が、一番目よりも、二番目の解釈に適合するからである。もし「御名」という表現が神の力を意味するなら、「あなたがわたしに下さっている御名」という節の意味は、「あなたがわたしに下さっている力」ということになる。だとすると、イエスは、父なる神がすでにイエスに力を与えてくださっているのに、同じ力で弟子たちを守ってくださいと、わざわざ父なる神に嘆願していることになる。(中略)
対照的に、もし「御名の中に」という意味だとするなら、神の御名は神の人格を表していることになり、「あなたがわたしに下さっている御名」の意味は、イエスのうちに現された父なる神ご自身、ということになる。この概念はヨハネの福音書の中心的なテーマであるばかりか(1:18、14:9)、17章6節の「あなたが世から取り出してわたしに下さった人々に、あなたの御名を明らかにしました」という言葉とも適合する。
つまり、イエスはご自分が啓示したお方に、弟子たちが忠実であるように保ってくださいと、祈っているのである。(P562)
●前置詞の図表
カーソンの結論は、以下の図表とも一致しています。この図表は、ギリシャ語の前置詞の意味を図に表したもので、マウンスの教科書にも登場します。
○の真ん中にあるのが「エン/en」で、この記事の場合、○は父なる神の「御名」あるいは人格を表し、その中に弟子たちを保ってもらえるようにイエスが祈っていることになります。
●御名による祈り
この箇所の「わたしの名によって」にも「エン」が使われており、直訳すると「わたしの名の中で求めることは」になります。
カーソンはヨハネ14:13~14について、次のように解説しています。
復活以降の状況では、御子による仲介の役割は、弟子たちの祈りにまで及ぶ。イエスの名による祈りとは、イエスの名が代表するものと完全に一致する祈りのことである(イエスの名は、魔術の呪文のような意味合いで使われるべきではない。1ヨハネ5:14参照)。(P497)
イエスの人格と一致している内容なら、どんなことでもそれが叶えられる、ということです。
ギリシャ語の前置詞、あなどれない存在ですね。
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