ダビデの日記

自分が学んだ聖書の教えに関するブログ

インクルーシオが示す福音書の信頼性

  マルコやルカの福音書は、情報源となった目撃証言者が誰であるかを明示しています。
 
 福音書の筆者らが、インクルーシオと呼ばれる技法によってそれを示しているからです。
 
 このインクルーシオを知ることにより、福音書が確かな証言に基づいた真実な内容であることを確認できます。 
 
目撃者
 
ルカ1:1~4
1私たちの間ですでに確信されている出来事については、初めからの目撃者で、みことばに仕える者となった人々が、私たちに伝えたそのとおりを、多くの人が記事にまとめて書き上げようと、すでに試みておりますので、私も、すべてのことを初めから綿密に調べておりますから、あなたのために、順序を立てて書いて差し上げるのがよいと思います。尊敬するテオピロ殿それによって、すでに教えを受けられた事がらが正確な事実であることを、よくわかっていただきたいと存じます。


 ルカは福音書の冒頭で、「初めからの目撃者」と呼ばれる人たちに言及しています。
 
 この「初めから」というのは、主イエスの公生涯の初めを指しています。
 
 公生涯の目撃者たちは、自分たちの目撃証言を他の人々に伝えていました。
 
 ルカはそのような形で伝えられた目撃証言を、「正確な事実」(新共同訳:確実なもの)と呼んでいます
 
 では、この「初めからの目撃者」(複数形)というのは、誰なのでしょうか。
 
 インクルーシオを通して、それを見つけましょう。 
 
インクルーシオ
 
 英語のウィキペディアでは、インクルーシオについて概ね次のように説明されています。
 
インクルーシオ:文書中のあるセクションの始めと終わりに、類似した素材を配置してフレームを作り、フレーム内の内容と配置した素材の間に関連性があることを示したり、配置した素材がフレーム内の重要なテーマであることを示す技法。 
 
 このような定義を読んでもわかりませんので、実例を見てみましょう。
 
事例1:マタイ4:239:35
 
マタイ4:23・新共同訳
エスガリラヤ中を回って、諸会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、また、民衆のありとあらゆる病気や患いをいやされた。
 
マタイ9:35 イエスは町や村を残らず回って、会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、ありとあらゆる病気や患いをいやされた。
 
 
 マタイは4:239:35の初めと終わりに、「御国の福音を宣べ伝え」という共通したフレーズを配置しています。
 
 ギリシャ語の原文を見ても、まったく同じフレーズが使われています。
 
 これにより、4:239:35に書かれた公生涯の中心テーマが、「御国の福音の宣伝」であったことがわかります。
  
事例2:マタイ5:177:12
 
マタイ5:17・新共同訳
わたしが来たのは律法や預言者を廃止するためだ、と思ってはならない。廃止するためではなく、完成するためである。
 
マタイ7:12・新共同訳 
だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言者である。
 
 
 マタイ5:177:12の初めと終わりに、「律法と預言者」というフレーズを配置しています。
 
 これにより5:177:12に書かれている山上の垂訓の中心テーマが、「律法と預言者」であることがわかります。
 
 このインクルーシオという技法は聖書だけのものではなく、古代ギリシャ・ローマ社会では一般的な修辞技法でした。 
 
マルコの福音書のインクルーシオ
 
 それでは、マルコの福音書のインクルーシオから、何がわかるのでしょうか?
 
マルコ1:16
ガリラヤ湖のほとりを通られると、シモンとシモンの兄弟アンデレが湖で網を打っているのをご覧になった。彼らは漁師であった。
 
マルコ3:16
こうして、イエスは十二弟子を任命された。そして、シモンにはペテロという名をつけ、
 
 
 これらの箇所から、マルコの福音書の情報提供者(目撃証言者)がペテロであることがわかります。
 
 インクルーシオから判明したこの結果は、他の情報からも確認できます。 
 
1ペテロ5:13
バビロンにいる、あなたがたとともに選ばれた婦人がよろしくと言っています。また私の子マルコもよろしくと言っています。 
 
 手紙の中でペテロは、マルコを「私の子」(ギ:フイオス/息子)と呼んでいます。
 
 これによりマルコは、ペテロの霊的息子であったと言われています。
 
 この人間関係の近さから、マルコの福音書の証言者がペテロであるというのは、想像に難くありません(参考サイト)。 
 
ルカの福音書のインクルーシオ
 
 では、ルカの福音書の目撃証言者は誰なのでしょうか?
 
目撃証言者1:ペテロ 
 
ルカ4:38・新共同訳
エスは会堂を立ち去り、シモンの家にお入りになった。シモンのしゅうとめが高い熱に苦しんでいたので、人々は彼女のことをイエスに頼んだ。
 
ルカ24:34 ・新共同訳
本当に主は復活して、シモンに現れたと言っていた。
 
 
 ルカの福音書のインクルーシオでは、4:3824:34に「シモン」という名が挙げられています。
 
 この共通した名前から、ペテロがルカの福音書情報源であることがわかります。
 
イエスとその目撃者たち」の著者リチャード・ボウカムは、同著p131でこう述べています。
  
Following Mark, Luke has made sure that Simon Peter is both the first and the last disciple to be individually named in his Gospel (4:38; 24:34), thus acknowledging the incorporation of the Petrine witness.

マルコにつづきルカは、同福音書において最初(4:38)と最後(24:34)に登場する弟子として、シモン・ペテロの個人名を明記している。こうして、同福音書がペテロ系証言の書物であることを認めている。 
 
 しかし、ルカの目撃証言者は、ペテロだけではありませんでした。 
 
目撃証言者2:女性たち(マグダラのマリア、ヨハンナ、その他)
 
ルカ8:2~3
また、悪霊や病気を直していただいた女たち、すなわち、七つの悪霊を追い出していただいたマグダラの女と呼ばれるマリヤヘロデの執事クーザの妻ヨハンナ、スザンナ、そのほか自分の財産をもって彼らに仕えている大ぜいの女たちもいっしょであった。
 
ルカ24:10
この女たちは、マグダラのマリヤヨハンナヤコブの母マリヤとであった。彼女たちといっしょにいたほかの女たちも、このことを使徒たちに話した。
 
 
 これらの箇所にはマグダラのマリア、ヨハンナ、他の女性らの名が配置されており、
 
 彼女たちもルカの福音書の目撃証言者であったことがわかります。
 
 ルカはこれらの女性たちに聞き取り調査を行い、福音書を記したと考えられます。
 
 
●あとがき
 
 このように福音書は、自身の情報ソースを明示しています。
 
 マルコとルカの目撃証言者は一番弟子のペテロであり、特にルカの福音書には複数の女性の目撃証言も含まれています。
 
 これらの証言者は、公生涯の「初めからの目撃者」です。
 
 マルコやルカ自身は十二弟子ではありませんが、福音書の内容そのものは十二弟子の証言に基づいているのです。
 
 このことを考えるとき、福音書の内容が何よりも確かな情報であることが確認できます。
 
 終わり