ダビデの日記

自分が学んだ聖書の教えに関するブログ

天の御国が「激しく攻められている」? マタイ11:12

 
 マタイ11:12は、翻訳や解釈が難しい箇所の一つだと思います。
 
 その理由の一つは、「激しく攻められている」と訳されているビアゾーという動詞が、中動態にも受動態にも取れるためです。
 
 主な邦語訳は、どれも受動態として訳しています。
 
 
マタイ11:12
 
新改訳
バプテスマのヨハネの日以来今日まで、天の御国は激しく攻められています。そして、激しく攻める者たちがそれを奪い取っています。
 
新改訳2017
バプテスマのヨハネの日から今に至るまで、天の御国は激しく攻められています。そして、激しく攻める者たちがそれを奪い取っています。
 
新共同訳
彼が活動し始めたときから今に至るまで、天の国は力ずくで襲われており、激しく襲う者がそれを奪い取ろうとしている。
 
聖書協会共同訳
洗礼者ヨハネの時から今に至るまで、天の国は激しく攻められており、激しく攻める者がこれを奪い取っている。
 
                  * * *
 
 しかし、英語訳聖書の中には、中動態として訳しているものあります。
 
New Living Translation
And from the time John the Baptist began preaching until now, the Kingdom of Heaven has been forcefully advancing, and violent people are attacking it.

ニュー・リビングトランスレーション
天の王国は力強く前進しており、暴力的な人たちがそれを攻撃している。
 

International Standard Version
"From the days of John the Baptist until the present, the kingdom from heaven has been forcefully advancing, and violent people have been attacking it,

国際標準訳
天の王国は力強く前進しており、暴力的な人たちがそれを攻撃し続けている。
 
                * * *

 ちなみに、中動態とは以下のようなのものです。
 
中動態は動作主と動作の受け手が同じになります。
 
I wash myself.
わたし(動作主)はわたしを洗う(動作の受け手もわたし)。
 
ギリシャ語では上の例のような態を「中動態」と呼び、動詞のかたちが能動態とは別となります。
 
                     出典:ギリシャ語の「中動態」動詞
 
 
 従いまして、マタイ11:12前半を中動態で訳すとこうなります。
 
天の御国は、それ自体を激しく攻めている」
 
 もちろん、これは「激しく攻める」という訳語を使い、中動態を教科書どおりに訳したものです。

 しかし、「新約聖書ギリシア語小辞典」の著者である織田昭先生は、先に挙げた英語聖書と同じように訳しておられます(強調部分)。
 
 
ビアゾー
暴力をふるう、強制する、;無理に押し入る、破る出る、突き破るように道を開いて突進する;へー バシレイア トーン ウラノオーン ビアゼタイ、王なる神の御支配という出来事が激しい勢いで進み始めている、マタ1112 
 
              出典:織田昭著「新約聖書ギリシア語小辞典」(P101
 
 
 続いて、12節後半の訳文もご覧ください(強調部分)。
     
                
ビアステース
暴力を用いる人、激しく襲う者;カイ ビアスタイ アルパゾウスィン アウテーン、(激しい勢いで進み始めた王なる神の御支配を)受ける人もまた奪い取る熱意と激しさで受け始めている、マタ1112. 
 
           出典:織田昭著「新約聖書ギリシア語小辞典」(P101102
 
 
 前半と後半を合わせて聖句を作りますと、次のようになります。
 
 
織田昭訳・マタイ11:12
王なる神の御支配が激しい勢いで進み始めており、受ける人もまた奪い取る熱意と激しさで受け始めている。
 
 
 この訳文は、並行記事のルカ16:16 の内容と整合します。
 
 
●ルカ16:16
 
新改訳
律法と預言者ヨハネまでです。それ以来、神の国の福音は宣べ伝えられ、だれもかれも、無理にでも、これにはいろうとしています。
 
新改訳2017
律法と預言者ヨハネまでです。それ以来、神の国の福音が宣べ伝えられ、だれもが力ずくで、そこに入ろうとしています。
 
新共同訳
律法と預言者は、ヨハネの時までである。それ以来、神の国の福音が告げ知らされ、だれもが力ずくでそこに入ろうとしている。
 
聖書協会共同訳
律法と預言者は、ヨハネの時までである。それ以来、神の国の福音が告げ知らされ、もが激しく攻め入っている
 
 
 この箇所からわかるのは、「神の国の福音」が告げ知られた結果、多くの人が神の国に入っているということです。
 
 織田先生によるマタイ11:12も、御国が激しい勢いで前進し、誰もが御国に激しく入っていることを伝えています。
 
 そしてこれは、マタイ11章の文脈とも整合します。
 
 御国が激しく前進しているにもかかわらず、コラジンやベツサイダは主イエスが説く天の御国を受け入れませんでした。
 
 だからこそ、主はそれらの町を責めておられるのです(マタイ11:20~24)。
 

●おわりに

 ルカ16章の並行記事との一致、マタイ11章の文脈との一致。
 
 これらを考えると、中動態として訳したほうがよいように思えます。
 
 皆さんは、いかがでしょうか?
 
 おわり