ダビデの日記

自分が学んだ聖書の教えに関するブログ

パウロ書簡におけるストイケイオン その2

 
 第2回目は、ストイケイオンが悪霊を指すとする説です。
 
 新改訳2017は、まさにその立場に立って訳しているようです。
 
 
新改訳2017・ガラテヤ4:3、9
3同じように私たちも、子どもであったときには、この世のもろもろの霊の下に奴隷となっていました。
9しかし、今では神を知っているのに、いや、むしろ神に知られているのに、どうして弱くて貧弱な、もろもろの霊に逆戻りして、もう一度改めて奴隷になりたいと願うのですか。
 
新改訳2017・コロサイ2:8
あの空しいだましごとの哲学によって、だれかの捕らわれの身にならないように、注意しなさい。それは人間の言い伝えによるもの、この世のもろもろの霊によるものであり、キリストによるものではありません。
 
新改訳2017コロサイ2:2021
もしあなたがたがキリストとともに死んで、この世のもろもろの霊から離れたのなら、どうして、まだこの世に生きているかのように、「つかむな、味わうな、さわるな」といった定めに縛られるのですか。
 
 
悪霊説
 
 多くの学者は、パウロがストイケイオンによって意図しているのは悪霊のことだと考えているようです。
 
 そもそもパウロがガラテヤ書を書いた理由は、偽教師による偽りの教えからガラテヤ教会を守るためでした。
 
 当時の偽りの教えで「初歩的な原則」といった場合、それは天界を支配する悪霊を指していたというのです。
 
 悪霊説を支持する学者たちが根拠としているのは、聖書以外の古代文献におけるストイケイオンの意味です。
 
 文献の中でストイケイオンは、「stellar spirits/星の霊」を指していたというのです。

 悪霊説を支持する方々は、それを根拠としてストイケイオンに悪霊の意味を持たせています。
 
 
聖書的根拠
 
 悪霊説を支持する方々には、聖書的根拠もあります。
 
 ガラテヤ4:8~9は、ストイケイオンを悪霊と解釈した場合、文脈上、論理が通ります。
 
 以下に新共同訳のガラテヤ4:8~9を抜粋します。
 
 
8 ところで、あなたがたはかつて、神を知らずに、もともと神でない神々に奴隷として仕えていました。9 しかし、今は神を知っている、いや、むしろ神から知られているのに、なぜ、あの無力で頼りにならない支配する諸霊の下に逆戻りし、もう一度改めて奴隷として仕えようとしているのですか。
 
 
 この箇所の記述によると、ガラテヤのクリスチャンたちが、入信以前に「神でない神々仕えていたことがわかります。
 
 そして彼らは今、「逆戻り」しつつあるとパウロは述べています。
 
「逆戻り」するのであれば、入信以前に仕えていた「神でない神々」(すなわち悪霊)のところに戻ると考えるのが順当です。
 
 このように、悪霊説には論理的整合性が見られます。
 
 
問題点
 
 しかし調べてみたところ、悪霊説には深刻な問題があることがわかりました。
 
 Theological Dictionary of the New Testament」第7巻によると、ストイケイオンが「星の霊」や「霊的存在」の意味を帯びたのは4世紀以降です(P682~P683)。
 
 それゆえTDNTの編集者は、ストイケイオンが「星の霊」や「霊的存在」と訳されていることについて次のように述べています。
 
「多くの箇所における誤解を与える翻訳および誤訳を、この場で論ずることはできない」(P682)。
 
 続いて編集者は「Text. Sol」と呼ばれる古代文献の事例を挙げ、ストイケイオンがダイモーン(悪霊)やプニューマ(霊)などのギリシャ語と併用されていた事実を指摘しています。
 
(ブログ主であるダビデは、上記のTDNTを実際に所有しているので、自分の目で確認した内容をここに書いています)
 
 つまり、4世紀以前のストイケイオンには、「悪霊」や「霊」といった「霊的存在」を示す意味がなかったということです。
 
 この事実が翻されない限り、パウロ書簡のストイケイオンに、悪霊などの霊的存在を示す意味を持たせることは不可能です。
 
 よって、悪霊説を支持することはできません。