ギリシャ語アエールと携挙
原語が持つニュアンスを知ることによって、携挙に対する皆さんの印象が変わるかもしれません。
1テサロニケ4:15~17・新改訳2017
15 私たちは主のことばによって、あなたがたに伝えます。生きている私たちは、主の来臨まで残っているなら、眠った人たちより先になることは決してありません。
16 すなわち、号令と御使いのかしらの声と神のラッパの響きとともに、主ご自身が天から下って来られます。そしてまず、キリストにある死者がよみがえり、
17 それから、生き残っている私たちが、彼らと一緒に雲に包まれて引き上げられ、空中で主と会うのです。こうして私たちは、いつまでも主とともにいることになります。
17節で「空中」と訳されているのがアエールという言葉です。
アエールの意味は以下のとおりです。
ストロングのコンコルダンス
空気、人が吸い込む低空の空気
出典:バイブル・ハブ
セイヤーの定義
空気、特に高度が低くて濃い空気。高度が高く、薄い空気とは区別される。
出典:スタディーライト
大気、空(くう)、空中、空気;エフェ2:2の「空気の権の君」は「地上の空気(不可避的に吸い込まされる大気=この世のものの考え方)を我が物顔に支配する者」の意味か.
(P9~10)
お気づきかと思いますが、アエールの特徴は、低い所にある空気であることです。
つまり、「空中」とはいっても地上から近い所だということです。
新約聖書中でアエールが使われているのは1テサロニケの他に6カ所ありますが、どの箇所においても地表から近い空中を指しています。
使徒22:23
そして、人々がわめき立て、着物を放り投げ、ちりを空中にまき散らすので、
1コリント9:26
ですから、私は決勝点がどこかわからないような走り方はしていません。空を打つような拳闘もしてはいません。
1コリント14:9
それと同じように、あなたがたも、舌で明瞭なことばを語るのでなければ、言っている事をどうして知ってもらえるでしょう。それは空気に向かって話しているのです。
エペソ2:2
そのころは、それらの罪の中にあってこの世の流れに従い、空中の権威を持つ支配者として今も不従順の子らの中に働いている霊に従って、歩んでいました。
黙示録9:2
その星が、底知れぬ穴を開くと、穴から大きな炉の煙のような煙が立ち上り、太陽も空も、この穴の煙によって暗くなった。
黙示録16:17・新共同訳
重要なのは、なぜパウロがアエールを使ったかです。
答えのヒントは、同じ17節にあります。
「空中で主と会う」の「会う」と訳されたアパンテーシスの意味を調べることで、その答えが見えてきます。
会うこと、出会い、出迎え、エイス アパンテーシン+属格 ~を迎えに;(P51)
また、Vine's Expository Dictionary of NT Wordsには、次のような説明があります。
アパンテーシスは、パピルスの中で新任の行政長官の到着に関して使われている。
「この言葉の特殊な概念は、新たに到着した高官を公式に歓迎することだったようだ。」
(Moulton, Greek Test. Gram. Vol. I, p. 14).
さて、アパンテーシスは聖書中で3回しか使われていません。以下が残りの2箇所です。
マタイ25:6
ところが、夜中になって、『そら、花婿だ。迎えに出よ。』と叫ぶ声がした。
使徒28:15
以上のことから、アパンテーシスの意味が「出迎え」であることは明らかです。
つまり、主が来臨されたとき、信者たちは空中で主を出迎えて、再び地上に戻るのです。
実際、文語訳は「空中にて主を迎える」と訳しています。
文語訳・1テサロニケ4:17
後に生きて存れる我らは、彼らと共に雲のうちに取り去られ、空中にて主を迎へ、斯くていつまでも主と偕に居るべし。
●あとがき
1テサロニケ4:15~17は、もともと「来臨」に関する話です。
つまり、キリストの地上再臨に関する描写です。
天から戻って来られるキリストは、信者をさらって天に戻るのではありません。
地上に向かう途中で信者を集めるのです(2テサロニケ2:1)。
パウロはそれを前提としていたので、意図的に低い空という意味のアエールを使ったのでしょう。
もし信者を取り去った直後に天に戻るのであれば、主は低い空まで下りてくる必要はありません。
信者を空の高い所まで引き上げて、そこから天に連れ帰ればよいのです。
これらを総合的に考えるとき、患難前携挙説は矛盾だらけです。
最後に、1テサロニケ4:17の原文を見て終わりたいと思います。
Ἁρπαγησόμεθα ἐν νεφέλαις
私たちは取り去られる ~の中に 雲
εἰς ἀπάντησιν τοῦ κυρίου εἰς ἀέρα
~のために 出迎え 主の 空中におられる
直訳:空中におられる主の出迎えのために、私たちは雲の中に取り去られる
おわり