ダビデの日記

自分が学んだ聖書の教えに関するブログ

「赦しました」それとも「赦します」? マタイ6:12

 
 
 マタイ6:12の新たな訳文の話です。
 
 
新改訳
私たちの負いめをお赦しください。私たちも、私たちに負いめのある人たちを赦しました
 
新改訳2017
私たちの負い目をお赦しください。私たちも、私たちに負い目のある人たちを赦します
 
 
 上記のように、新しい訳文は「赦しました」から「赦します」に時制が変わりました。
 
 従来の新改訳が過去形で訳した理由は、「赦しました」の部分がアオリスト過去形で書かれているからです。
 
 アオリスト過去形の基本は過去の出来事の描写ですから、「赦しました」と過去形で訳すのが自然です。
 
 しかし、新改訳2017は敢えて現在形で訳しました。
 
 その理由については、次のように説明されています。
 
 
第三版の訳では、神による赦しを受けた自らが他の人たちを赦したことを挙げて、改めて神に赦しを求めていると理解できます。しかしまた、自分たちが他の人の負い目を赦したことを根拠に、自分の赦しを求めていると理解される危険性もあります。そうなると、赦しが恵みでなくなってしまいます。
 
ギリシア語の動詞、アフェーカメンは、アオリスト(不定過去とも呼ばれ、過去の動作を表すことが多い時制)なので、「赦しました」と訳す方が自然と思われるかもしれませんが、この時制は必ず過去の行為を表すわけではありません。劇的に表現するアオリスト、くり返される行為とか時を越えた行為を表すアオリストもあり、その場合は現在形で訳すことになります。
 
中略
 
2017」では、他の人を赦し、自身についても神の赦しを求め続けて行くことと理解し、「私たちも、私たちに負い目のある人たちを赦します」と訳すことになりました。
 
                          引用元:聖書翻訳の最前線
 
訳文の時制について
 
 それでは、マタイ6:12の訳文の時制について考えたいと思います。
 
 上記の説明にあるとおり、ギリシャ語のアオリスト過去形は、確かに現在形で訳すべき場合があります。
 
 そのケースの一つとして、格言的アオリストがあります。
 
 
Gnomic Aorist
The aorist indicative is occasionally used to present a timeless, general fact. When it does so, it does not refer to a particular event that did happen, but to a generic event that does happen. Normally, it is translated like a simple present tense.
 
格言的アオリスト
アオリストの直接法は、時間に制限されない一般的事実を表現するために使われることがある。その場合、過去の特定の出来事を示すのではなく、いつでも起こり得る一般的な出来事を示す。通常、単なる現在形として訳される。
                             出典:Greek Grammar
                           
 マタイ6:12後半の「赦す」は、アオリストの直接法(aorist indicative)で書かれています(参照:バイブル・ハブ
 
 上記の説明にあるとおり、アオリストの直接法の場合、格言的アオリストである可能性が考えられます。
 
 つまり、主イエスは、格言的な教えとして12節を述べている可能性があるということです。
 
 もしそうであるなら、この箇所は現在形で訳すべきです。
 
 そうすべきもう一つの理由は、ルカの並行記事が現在形で書かれていることです。
 
 
ルカ11:4
私たちの罪をお赦しください。私たちも私たちに負いめのある者をみな赦します
 
 
 上記の「赦します」の部分は、原文でも現在形で書かれています(参照:バイブル・ハブ)。
 
 ですから、マタイのほうだけを過去形で訳さなければならないと解することはできません。
 
 かえって、現在形で訳したほうが適切かもしれません。
 
 ただし、欽定訳は別として、他の邦語訳や英語訳聖書は過去形や完了形で訳しています。
 
 
新共同訳
わたしたちの負い目を赦してください、わたしたちも自分に負い目のある人を赦しましたように。
 
聖書協会共同訳
たちの負い目を赦してください/たちも自分に負い目のある人を赦しましたように
 
直訳「赦しましたから」 底本以外の読み「赦します」
 
口語訳
わたしたちに負債のある者をゆるしましたように、わたしたちの負債をもおゆるしください。
 
NIV
And forgive us our debts, as we also have forgiven our debtors.
私たちの負い目を赦してください。私たちも、私たちに負い目のある人たちを(すでに)赦しましたので。(あるいは「赦したように」)
 
ESV/英語標準訳
and forgive us our debts, as we also have forgiven our debtors.
同上
 
NASB/新米標準訳
And forgive us our debts, as we also have forgiven our debtors.
同上
 
KJV/欽定訳
And forgive us our debts, as we forgive our debtors.
私たちの負い目を赦してください。私たちが、私たちに負い目のある人たちを赦すように。
 
 
 これまで見てきたとおり、現在形で訳すべき根拠もあり、過去形や完了形で訳すべき理由もあります。
 
 どちらを取るかは難しいところですが、私としては格言的アオリストに取りたい気がします。
 
 おわり